坂本の栄田にある大岩の上に「弘法大師御通夜岩」という標柱が立てられています。 これは、弘法大師さまが慈眼寺へ向かう途中、ここでお通夜(一晩中お祈りをするこ と)をされようとしましたが、あまりの寒さのために、近くの民家に泊めてもらうことになりました。
民家の老女は、寒さにふるえる大師さまを気のどくがり、布を織っていた機織り機を、惜しげもなく折って薪にして、大師さまにあたってもらい、ご飯を炊いてさしあげ親切にもてなしました。大師さまは、老女の親切に感謝しながら一夜を明かし、次の日の朝出発される時「親切なもてなしに、何か礼をしたいのですが、このとおり旅の僧のことなので何もできないが、どんなお礼をしたらよろしいか。」「お礼などいりませんが、ただこのあたりは飲み水がとぼしいのと、霜がたくさん降るので困っています。仏様の力でお救いくださるとありがたいのですが。」と、老女は答えました。
大師さまが、持っていた杖で土地をつつかれお祈りされると、そこからたちまち清水が噴き出し、それからはどんなに日照りが続いても涸れたことがありません。しかも、この水を霜やけしたところにつけると、たちまちのうちに治るという特効があり、周囲にしめ縄を張りめぐらせて、汚れないよう大切にしています。
また、大師さまは老女の寒さを思いやり、野に立たれ霜止めのお祈りをされました。それ以来この付近は、どんな寒い日でも霜が降りなくなりましたので、人々はこの付近を「極楽」と呼び、大師堂を建ててお大師さまをおまつりしています。
『勝浦の民話と伝説』より
※ 「弘法大師御通夜岩」は坂本字栄田にあり、近くには「お大師さん」がまつられています。
※ 大師堂は坂本字栄田にあり、この「お大師さん」は、霜を降らないようにしたことか ら通称「霜降らず大師」と呼ばれています。また、近くには、清水が噴き出した跡と言われる通称「極楽の大師水」があり、そのすぐそばには老女をまつると言われる祠があります。